自転車での走行中昼時になれば食堂風の店でランチタイムとなる。
これは番組開始当初にはあまりなかった映像と記憶しているが、
最近はほとんど毎日登場する。なにぶん昼食なので土地の名物料理、
ということは少なく、普通のメニューの中から選ばれる。

火野の好物はオムライスとスパゲティ・ナポリタンである。タバスコを
たっぷり振りかけたナポリタンを素早くすすっていきなり咽る、
というのがお決まりのギャグになっている。

それにしても感心するのは火野のモテ度である。かつて若かりし頃その道で
たくさんの浮名を流したのは有名だが、その彼も今や66歳。しかし食堂はじめ
行く先々で中高年女性が黄色い声をあげて握手を迫ってくるのだ。
また輪行の車内や駅頭で火野自身が目にとめた彼好みの女性に声をかけ、
その彼女とのやりとりをコミカルな音楽を背景に描くのも名物コーナーになっている。

こうして、言わば旅の醍醐味とも言える「移動」「食」「出会い」をこなしながら、
やがて一行は「お手紙」にあったこころの風景の場所に到着する。

火野が「とうちゃこ」と宣言する。こころの風景では「どこそこから見る夕陽」という
オーダーも多い。しかしジンクスのように「夕陽」の回はいつも空しい曇り空。
燃えるような夕陽を中継できたのは数えるほどしかない。だが沈む夕陽は見えなくても、
カメラは生真面目に西の空を映し続ける。しかしそうした自然さが、造りものではない、
この番組の「出たとこ勝負」性を表しているのだ。何故なら本当の旅でもそんなハズレは
往々にしてあるのだし、それゆえ旅は人生に譬えられるのだろう。

出発前の「お手紙」の朗読により、視聴者の頭の中にはすでにこの場所とエピソードの
関係が刷りこまれているので、着いた場所は既に「ただのそこらへん」ではなくなっている。

遠い日、この場所で家族の生活があり、あるいはここを訪れた小さな旅があった。
それらは特筆するほどのこともない、普通の営みだった。しかし今はない。家族の幾人
かは既に世を去り、かつての輝いていた場所、かつてとても大きく、広く感じた空間も今や見る影もない。今一度訪れてみたいが叶わないので火野に仮託する。そんなセンチメンタリスムがこの番組に通底している。と言うよりこの番組の主題なのだろう。

画像のバックに流れるテーマ曲も良い。池田綾子の透明感のある歌声がこの自転車旅に爽やかな感動をもたらす。

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