かつて『極道の女たち』などのノンフィクション分野で一時代を気づいた家田荘子の
言わば「お遍路ルポ」である。四国八十八か所1,500キロを徒歩でいちどきにまわる
ためには最低40日が必要と言われおり、当然ながら現役で働いている人たちには
実現不可能だ。

そこで家田が提唱しているのは1回2泊3日程度の行程で繰り返し
四国を訪れてはつなぎつなぎ遍路を辿るというもの。実際には四国に住んでいない限り
アプローチの交通費がばかにならない方法だが、今はLCCも高速バスもある時代なの
で工夫次第では実現可能だろう。

家田は2007年に高野山大学で灌頂を受けて僧侶の資格を得ており、この著作を執筆
している段階で四国八十八か所を徒歩だけで巡る「歩き遍路」で3回、クルマで走る「クルマ
遍路」を2回果たしている。

世に四国遍路についての書物はあまた出版されているものの、この本のように全札所、全
途中経路を順路に辿って克明に記したものは他に類を見ないのではないだろうか。それも
ドキュメンタリー風に仕上がっているので、読んでいるうちに自分も札所の寺院で般若心経を
唱えていたり、分かりづらい途中の道に迷って悪戦苦闘しているような臨場感を味わうことが
できる。また例えば経路途上にあるトイレについてなど、女性目線で観察がなされているので、
男性などほとんど気がつかないようなことにも細やかな情報がちりばめられている。

本書の本文部分の特徴は、①札所寺院についての基本事項や訪れた際の印象、続いて
②次の札所までの道中についての描写が交互に、1番から88番まで順番に繰り返される
構成となっている。この本文を読み進みながら適宜巻末にある地図と札所一覧、宿泊施設
リスト、スケジュールのひな形等を参照にすれば四国巡礼の空間的イメージが少しずつ
把握できてゆくだろう。多分、巡礼の精髄ともいえるものは札所ではなく、途中の道中にあるに
違いない。 
[KKベストセラーズ ベスト新書237  2009年刊行]