小笠原海運は主力船である「おがさわら丸」を7月2日から
新造船に置き換えて運行を始めました。「おがさわら丸」としては
三代目となる新造船は総トン数が11,035トンとなり大型化が
進み、また速度も航海速力が23.8ノットとなって高速化も
実現しました。これにより従来25時間30分を要していた
東京竹芝桟橋から父島二見港間約1,000kmを24時間で結べ
ることになりました。ちなみに筆者が小笠原を訪れた25年ほど
前にはまだ3,000トン級の初代おがさわら丸の時代で28時間
もかかっていました。総トン数で3倍になり所要時間も4時間
短縮されているわけですからまさに隔世の感があります。

この時間短縮によって竹芝桟橋の出港時間が従来の午前10時から
11時に変更になりました。小笠原海運の説明ではこの1時間の
遅発によって、これまで朝一番の航空便や鉄道に乗ってもおがさわら
丸に乗り継げなかった地域からも同日出発が可能になり、小笠原への
潜在的な旅行需要を掘り起こして集客増が見込まれる、とされて
います。

しかしそうは言ってもまる1日の所要時間。小笠原諸島は、時間距離
という概念でみると東京都でありながら東京からはもっとも遠い国内の
地域になるのです。もちろんその理由は航空便がないからです。過去何度も
空港造成案や水上飛行機による路線開設が検討されましたが、そのたびに
生態系保護などの観点から見合わせになってきた経緯があります。

小笠原諸島は前述の通り東京の南南東約1,000kmの太平洋上にある
30余りの島嶼からなり、一般的な観光で訪れるのは父島および母島とその周辺
に限られます。この諸島は太古以来大陸から隔絶していたため生態系は
独特の進化を遂げてきました。このため「東洋のガラパゴス」などと
呼ばれてきたわけですが、2011年には日本で4番目の世界自然遺産
として登録されました。主に山岳地帯が対象となる他の3地域(知床、
白神山地、屋久島)に比べると小笠原は圧倒的な海洋自然が魅力と
なっています。では小笠原を訪れて何をなすべきか?実は「ここぞ」
と言うべき観光の目玉になるようなスポットはないのです。逆を言うと
どこへ行っても南国らしい光あふれる光景に出会うことができます。
ですからもしあなたが現役バリバリ世代の人であるなら、筆者は何も
しないことを是非お薦めしたい!どこかの静かな入り江に大きな寝椅子を
持ち込んで、時間とともに移りゆく海の色を眺めて一日を過ごして
みて下さい。言わば「島時間」にどっぷりと浸って無益な日を送る。
こんな贅沢な旅はありません。きっと忘れられない休日になるでしょう。