チャリ旅はときに雨に降られることもあれば、「人生下り坂最高」と言い放って憚らない火野の大嫌いな上り坂や、高い橋を行くこともある。長い上り坂に息を切らし、喘ぎながらペダルを漕ぐ姿も、こわい、こわいと言いながら橋を渡る姿も今や決まりごとになってこの番組に外せない定型シーンだ。
火野は植物や昆虫、小動物に詳しい。高いところは怖くても、虫や蛇は平気のようだ。それらの蘊蓄を語ることもたまにあるが、イヤミにはなっていない。
朝手紙を読んだ場所から、まずは輪行と言って列車やバス乗車で距離を稼ぎ、最終目的地まで概ね2
~30キロほどのところから自転車旅が始まる。このため2ケタまでの国道やそのバイパスを延々と走る、というシーンはほとんどない。たいていは間道のようなウラ道を走るのである。それはときに農道のようであったり、民家の軒をかすめるような路地裏道だったりする。
この造りが多分「懐かしい日本」の情景を演出するために一役買っているのだ。もしメジャーな国道やバイパスを走れば、今や全国各地どこへ行っても同じ景観が続くのである。大規模ショッピングモール、ファストフード店、世界展開の衣料品店、ホームセンター、家具店、ドラッグストア、カフェ、ラーメン・うどん・蕎麦店、焼肉店。最近は家族葬のチェーン店などもある。枚挙に暇がないが、要は金太郎飴のような「バイパス景観」が今の日本のスタンダードなのである。これらが旧来の駅前商店街のような「中心市街地」を空洞化させたことは明らかなのだが、是非を問うつもりはない。ただ火野の「こころ旅」は間道、ウラ道を行くことによりそうしたバイパス景観を巧妙に排除しているのだ。