不思議な魅力のある番組である。その魅力が旅の主役である火野正平の軽妙な語り口によるものなのか、あるいは自転車ロードムービー的な番組の進行によるものなのか、おそらく両方なのだろう。

一日の旅は朝火野が視聴者から寄せられた「お手紙」を読むシーンから始まる。たいていは中高年、つまり火野と同世代の男女から送られてきたもので、ある特定の「場所」にこめられたエピソードが淡々と語られてゆく。多くは家族にまつわる昔の思い出ばなしである。その「場所」の多くは有名な景勝地などではなく、「そこらへん」のようなところばかりだ。山里のそこらへん。海の見えるそこらへん。畑や田んぼの中のそこらへん。ふつうの町のそこらへん。このようにメインとなる目的地が誰も知らないマイナー「場所」であるところが他の旅番組とこの番組に一線を画しているのだ。

「お手紙」の最後はたいてい「火野さん、ぜひ私のこころの風景を訪ねてみてください」で結ばれる。そして自転車の旅が始まるのである。火野を含め五人の一行が銀鱗一列縦隊になって進んでゆく。火野、カメラ担当、ディレクター、音声担当、そしてもう一人は何役なのかわからないがとにかく通常は五人で走っている。この番組は奇しくも2011年、東日本大震災の直前に始まった。[つづく]

番組は火曜から金曜の19:00から30分間。ほかに短縮版や再放送など多数あり。今季は12月18日の沖縄まで放送される