今年は平成28年。ということは昭和の時代が終わってもうすぐ
30年にもなるのですね。かつてその昭和の時代に明治や大正年間
が懐かしまれたように、今や昭和の時代とレトロという言葉が
結びついて語られるようになってしまいました。まさに「昭和は
遠くなりにけり」です。ではその昭和の時代は、平成の今と何が
違っていたのでしょうか。もちろんひとことで言い表すのは難しい。
でも「屈託のなかった時代」だったと言えないでしょうか。例えば
この時代には「個人情報の保護」などという概念すらなかったと
思います。良し悪しではなく、それほど社会が複雑化されていな
かった。格差社会などという捉え方はなく、むしろ逆に一億総中流化
ということが言われていました。日本国民のほとんどが自分の
国の行く末を素朴に信頼していました。おそらく、こうした言わば
この時代の空気の「緩さ」が、昭和の時代を懐かしくさせている
理由なのではないでしょうか。
そして今、そんな懐かしい昭和レトロの雰囲気を味わえる場所が
密かな人気を集めているのです。わかりやすいイメージとしては
新横浜ラーメン博物館がありますが、あそこは昭和を再現した町。
もちろんそうした場所での疑似体験も楽しいものですが、全国に
散在する昭和レトロ商店街を訪ね歩く旅はいかがでしょうか?まず
は山梨県の富士吉田市へタイムスリップしてみましょう。富士山の
北麓にある同市は昭和30年代まで、機織りの町として全国に
その名をとどろかせていました。それが徐々に衰退して、商店街から
も活気が失われていったのは全国共通の現象ですが、その翳りを
うまくとりいれてレトロの街並みにするか、ただの裏寂しいシャッター通り
になるかはやはりそこに生きる人々のセンスのようなものの違いなの
ではないでしょうか。

富士吉田では、富士急富士山駅の北側、月江寺駅から下吉田駅までの
界隈にある商店街がまさに昭和レトロを体現したような町なのです。
そのいちばんの理由として挙げられるのが「路地の多さ」。中心通り
である月江寺通りから沢山の路地が枝分かれしていて、その奥には
スナックや居酒屋がひしめきあっているのです。まるで中東のバザール
の裏道に迷いこんだようになります。きっと夜にホロ酔い気分で歩いたら
すぐに道に迷ってしまうでしょう。それもまた旅の楽しい想い出になり
そうです。もちろん古いお店も多いのですが、古い家屋を再生させて
新しく開店したカフェやバーなんかもあって、新しい息吹を感じること
もできます。でもこの町を訪れたなら是非たずねていただきたいのは
「月の江書店」。古書店ではありませんが、この書店をのぞくと
富士吉田という町がもつサブカルチャーのパワーにふれることが
できるでしょう。